2009年2月5日、スウェーデン政府は、政治基盤を形成する気候・エネルギー問題に関連する一連の政策を発表しました。原子力発電は激しい議論が繰り返されてきた課題の1つで、2010年までにすべての原子力発電を廃止することが目標とされてきました。しかし、この政策転換によって原発廃止法と核技術法の条項から「新たな原子力発電所建設の禁止」が撤廃されることになり、原子力発電所の閉鎖と新設を計画的に行うための調査委員会が設置されることになりました。
スウェーデンではすでに、1980年に原子力発電に関する国民投票が行われています。国民の75.6%が参加したこの投票では、投票者の38%が原子力発電の廃止に賛成し、国会は2010年までにすべての原子力発電を撤廃することを決議しました。2010年という年限は、原子力発電所の耐用年数を25年として、最後の原子炉の操業開始が1985年に計画されていたことから算出したもの。来年には最後の原子炉が閉鎖される予定だったわけです。
バーシェベックにある2つの原子炉は、1号機が1999年に、2号機が2005年に操業を停止しました。その理由の一端は、これらの発電所によって、原子炉を持たない隣国デンマークとの関係に摩擦が生じていたことにありました。デンマークは、バーシェベックが首都コペンハーゲンにあまりにも近接しているために、事故の危険性を憂慮していたのです。
しかし、2000年代に入ると、スウェーデン人の原子力に対する考え方は、ずいぶんと前向きになりました。2008年に行われたある世論調査によれば、スウェーデン人の2人に1人は、原子力発電所の建設を望んでいます。また、スウェーデン政府も、原子力発電は将来にわたって国の電力供給に欠かせないと考えています。以前は再生可能なエネルギーへの完全移行を考えていました。しかし、再生可能なエネルギーが十分に確保できる保証のない現状では、将来の電力不足を回避するための保険として、新たな原子力発電所を建設していかなければなりません。
原子力発電に関する補足規定では、最大10基の原子炉を上限として、既存の発電所に新設するという条件ながら、現在操業中の原子炉が耐用年数に達するのに合わせて、段階的に新しい原子炉に代替できることになっています。
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フォッシュマルクの原子炉
© Vattenfall
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この新しい政策は、過去30年間、撤廃が叫ばれながらも存続してきた原子力発電業界にとって、喜ばしい回答として迎えられました。今回の政策転換では、二酸化炭素を排出しない暖房と電力生産に向けた開発の継続が認められたことになるからです。しかし、その一方で政府は、原子力発電に対して直接あるいは間接的な援助はできないとしています。原子炉の建設には、1カ所につき400億から600億スウェーデン・クローナ(7200億円)のコストがかかります。
また、今回の政策転換には、リングハルス、フォッシュマルク、オスカシュハムの3地区にある原子炉の共同所有を解消したいという意図も含まれています。現在、イー・オン(E.ON)、ヴァッテンファル(Vattenfall)、フォットゥム(Fortum)の電力3社が、様々な形態でスウェーデンの原子力発電所を所有しています。共同所有が解消されることになれば、競合他社の市場参入が可能になり、価格競争による電気料金の値下がりが期待できるというわけです。
スウェーデンは、これまでに12基の原子炉を所有してきました。最初は、1954年にストックホルムで操業が開始された原子炉で、研究とエンジニアの教育が目的でした。原子炉建設に付随するもう1つの理由は、将来、スウェーデンの核兵器プログラムにかかわる問題を研究することでした。
現在スウェーデンでは、10基の原子炉が稼動しています。フォッシュマルクとオスカシュハムの発電所はそれぞれ3基あり、リングハルスには4基の原子炉があります。これら7基でスウェーデン国内の総電力供給量の約半分を担っているのです。原子力発電所が存在し続けることは、当面はスウェーデンの電力供給が確保されることを意味しています。 

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