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迅速な対応も、アスベストの被害は
食い止められなかった

アスベスト委員会事務総長
ベッティル・レメーウス氏

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  アスベスト禁止令から新たなアイデアが生まれた
2005.12.15
1975年秋、スウェーデンにアスベスト警報が出されました。アスベスト、特にアスベストの粉塵が健康に害を与え、肺機能を低下させたり、悪性胸膜中皮腫の原因になったりすることが明らかになったのです。近年ようやく日本でも問題になり、除去作業が行われているアスベストに対するスウェーデンの取り組みを、労働環境庁幹部職員であり「アスベスト委員会*」の事務総長でもあるベッティル・レメーウス氏に聞きました。
アスベストの脅威は国際的な研究で明確になり、スウェーデンで禁止令が発令された1975年当時、海外の論文などでも主張されていました。「しかし、国内に被害者が出るまでマスコミや労働組合、政治家、労働者保護団体などは動きませんでした」と、レメーウス氏は当時を振り返ります。

警鐘を鳴らしたのはアスベストを取り扱う職種を多く含む労働者組織「全国労連」のスウェーデン人医師、アンデシュ・エングルンド氏。国内のがん患者リストを分析した結果、アスベストへのばく露が原因と見られる中皮腫による死亡率が、極めて高いことが判明したのです。

アスベスト自体は危険な物質ではありません。結合した状態で触らなければ、何の被害もありません。しかし、アスベストを扱う際に飛び散る細かい粉塵が肺に被害を与えるのです。ゆえに、家屋の断熱・絶縁作業などでアスベストを扱ったことのある建設業者に、アスベスト被害の兆候が多く見られるのです。エングルンド氏は、そのことに気づきました。

彼の発した警告は、マスコミに広く取り上げられました。労働者組織は即座に対応。アスベストの使用法について議論し、規則を作りました。そして翌年の1976年には、セメント製品やフィルター、パッキン、断熱材に含まれるアスベストの一種、クロシドライト(青石綿)の使用が禁止されました。

その後もアスベストに関する論争は何年も続きました。特に注目を集めたのは、南スウェーデンでアスベストセメントの断熱板を製造していたある会社で発覚した、労働環境に関するスキャンダルです。同社の上層部は、アスベストが肺に致死的な被害を与えることを知っていながら、何も対策を講じていませんでした。会社が労働者の健康を保護する努力をしないまま、アスベストを扱い続けていたのです。この事件がニュースとして流れた時、国民は「この上層部の行動は許せない!」と声高に非難しました。

禁止令によって起きた波紋

上記のような議論や事件がきっかけとなり、スウェーデンでは1982年に法律でアスベストの使用が禁止されました。レメーウス氏は、スウェーデンのアスベストに対する対応は迅速だったといいます。「国際的に見ても、スウェーデンは迅速かつ積極的にアスベスト問題に対処したと言えます。またスウェーデンは、産業界と対立した世界初の国でもあります。カナダは、『アスベストを取り扱ったり使用したりする安全な方法はある』と主張し、スウェーデンのアスベスト禁止令に強く反対しました」

カナダがスウェーデンの禁止令に反発した理由は、カナダが当時のソビエト連邦と並んで世界一のアスベスト製品生産国だったことです。その使用を法律で禁止されるのは、深刻な営業妨害と捉えたのでしょう。禁止令が出されるまで、スウェーデンはアスベストを大量に輸入していました。特に1960年代には、短期間で100万戸の一戸建て住宅やマンションを建てることを目的とする都市化政策によって住宅の需要が急速に増加し、建設ラッシュが起こりました。また、スウェーデンの町が再開発され、大きなオフィスビルや工場などが数多く建設されていました。

このプロジェクトの重要な「礎石」となったのが、扱いやすく安価な万能材であるアスベストだったのです。1970年代の終わりには新築された住居、オフィス、工場などに合計40万トンのアスベストが使用されていました。その最中に、アスベストの健康への害が判明したのです。1980年代半ば、当時の政府は労働環境庁の活動の一環として、アスベスト委員会を設置しました。委員会の仕事は、スウェーデンの住居やその他の建築物に使われた40万トンのアスベストの除去や取り扱いについての規則を作成することでした。

「結局、建築物は取り壊されることになりました。通風管にアスベストが使われている場合は早急に、家屋や工場設備の解体に関しては長期的に作業するということになりました」と、レメーウス氏。その作業は、今もなお、続いています。

国々が相互に学び合うことが必要

アスベストに関するスキャンダルが発覚したのは30年も前。使用禁止令が出されたのは1982年ですが、現在でも「アスベストは危険」という見解は明白です。
「中皮腫には30年、もしくはそれ以上の長い潜伏期間があり、スウェーデンでは現在、年間約120人が明らかにアスベストが原因で亡くなっています。この死亡件数は2000年ごろから増加し始め、今は横ばい状態。つまり、まだ減ってはいないのです」

レメーウス氏は、アスベストの輸入グラフと中皮腫による死亡件数グラフが、30年の間隔をおいてほぼ完全に一致していると言います。ほとんどのがん患者が断熱業者や配管工、そして船上で断熱材に含まれるアスベストに触れる機会が多い船員といった職種に偏っています。70年代のアスベスト警報に対する素早い対応により、スウェーデンはアスベスト粉塵へのばく露による死亡件数を減らすための方法やヒントを、世界のどの国にも先駆けて得ることができました。

欧州の他の国々の人々にとっては、スウェーデンの経験は暗い未来図としてしか映らないかもしれません。欧州だけで25万人、主に建設業者がこの先30年間に中皮腫で亡くなることが予想されています。しかし、スウェーデンの経験をもとに、他の国々はスウェーデンより効果的で建設的な方法をとることができます。各国がお互いに学び合い、アスベストと戦っていくことが望ましいことは言うまでもありません。

※アスベストとは
アスベストとは、さまざまな化合や特性を有する天然の繊維状珪酸塩物質の総称です。最も多いアスベストの成分はクリソタイル(白石綿)で、主にカナダのケベックやロシアのウラル山脈で採掘されます。スウェーデンのアスベスト含有製品の使用は、1970年代初めに輸入量が年間2万トンに達するほど増加しました。20年後の1990年代半ばには、輸入量は年間400トンにまで減少しています。

※アスベスト委員会
1980年代半ばに政府がアスベストの使用箇所を調べ、除去の必要性があるかどうかを決定するために設置した委員会



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