"Ho, Ho,
Ho"の声とともに、一年に一度だけやってくるサンタクロースは大きなお腹にモジャモジャの白い髭がトレードマークの、心から愛すべき優しい存在です。お伴のトナカイたちをどっさり積もった雪の上に残して、窮屈な煙突から下りてきて、長くつしたを贈り物で一杯にしてくれる…….
でも、スウェーデンの子どもならば誰でも知っているように、サンタクロースにはもう一つの面もあるのです。
スウェーデンでは、サンタクロースは、トムテとして知られています。そのトムテは、暗くて意地悪で異教徒的と、一般的に知られているサンタクロースとは正反対の存在です。そして、このトムテにはキリスト教がスウェーデンに普及する以前の奥深いルーツがあります。サンタクロースのモデルは、紀元300年頃、現在のトルコのマイラという町に住んでいた、セント・ニコラスという名の司教をモデルにしたと言われています。一方トムテは、古くからの北欧の迷信によると、この地の最初の移住者で、北欧の森に住んでいるということになっています。現在のサンタクロースよりも背が低く痩せていて、その最も大切な仕事は、プレゼントを配ることではなく、スウェーデンの農場を守ることと言われています。
現在私達がイメージするサンタクロースは善意の象徴なのに対して、トムテは優しさを表す偶像とはとても言えません。しかし、トムテは、その愛や優しさの象徴であるデップリと太った白ヒゲのサンタクロースよりも、もっと複雑でより興味を掻き立てる特徴(…少なくとも大人たちにとって)の持ち主としてスウェーデン人に親しまれています。
とても気難しい性格の持ち主だったため、トムテはなにかご褒美がもらえないのなら、その義務を果たすことを拒否していました。これは、現在でもスウェーデンの伝統の中に残っており、クリスマスの時期には、家のすぐ外の雪の上に、ミルクで煮込んだライスポリッジ(おかゆ)を出す習慣があります。
トムテは、家族とその家族が住んでいる土地や場所や農場に強い絆を持っていて、そこの農夫やその家族の暮らしを楽にしてあげることが彼の仕事です。トムテは、人々が眠りについている夜のあいだに、こっそりと自分の仕事をするのが常なので、その姿を見掛けることは決してありませんが、トムテはいつもあなた近くにいるのです。いつもそこにいるのが当たり前のように思ってはいけません。彼の機嫌を取って大切に扱わなければなりません。でなければ、厄介なことが起こります。
クリスマス・イブには、トムテも同じようにご馳走にありつけるよう、テーブルの上には食べ物を残して置くことになっています。もし忘れてしまったら、不幸や病気や、時には飢餓などにみまわれる結果にもなり兼ねません。その逆に、十分にご馳走を振る舞われて幸せなトムテは、その農場の繁栄のために多いに貢献します。十分にご馳走を振る舞ってもらえなかったトムテが隣家から食べ物を盗むということもしばしばあったと古い伝説にあります。
トムテの興味深いところは、この性格だけではありません。現在のトムテの歴史を知ることは、スウェーデンのクリスマスの歴史を知ることになるのです。
もともとトムテとサンタクロースは別々のものでした。トムテは北欧の森に住む妖精でしたし、サンタクロースはトルコのキリスト教の聖人、ニコラス司教がモデルです。
では、どうして、トムテがスウェーデンのサンタクロースと呼ばれるようになったのでしょうか。
現在でもいろいろな説はありますが、もともとキリスト教の国ではなかったスウェーデンにキリスト教が入って来た時、スウェーデン人達は
"打ち負かせないなら、戦略的に仲間になれ"とばかりに、スウェーデン土着の古い伝統に名前を付け直して、それを教会に合体させていったと考えられています。
また現在のキリスト教の伝統の多くが、元来、異教徒的なルーツ、古代の豊穣儀礼や、暗い北欧における光の賞賛に由来しているとよく言われていますが、クリスマスは、"冬至の儀式"のようなもので、一年で一番暗い時期に、再び日が長く明るくなっていくことを祝って行なわれるものだったのです。そしてクリスマスには、暗い森に住み着いた多くの妖精がやって来たのです。例えば、トムテのように。
現代のスウェーデンの子どもたちにプレゼントを持ってきてくれるのはサンタクロースですが、その一方で、古代のトムテはこの時期のスウェーデン伝統の多くを占めていて、クリスマスの飾り付けにはこの伝統が良くうかがえます。クリスマスは、スウェーデンの伝統や歴史に親しむ良い機会です。そしてスウェーデン人自身もクリスマスという行事によって、キリスト教を普及させていったのです。
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