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ホグロフス社のストックフォルムオフィスと製品の数々
(写真提供 株式会社アシックス)
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ホグロフス社は、スウェーデンを拠点に各国でアウトドアブランド「HAGLÖFS」を展開するグローバルなメーカーです。1914年の創業以来、約100年の長きにわたって付加価値の高いアウトドア用品を提供し続け、同領域におけるプレミアム・ブランドとしての地歩を固めてきました。一方で、アシックスは競技用シューズに象徴される高機能・高品質な製品群で知られ、スポーツを楽しむ一般の競技者から世界中のトップアスリートまで、幅広い愛好者を持っています。
「買収は、全社経営計画の一環であるプロダクト・ポートフォリオの強化を目指して行われました」と言うのは、アシックスの執行役員兼グローバル事業室室長を務める加藤克巳氏。2004〜2010年までアシックスヨーロッパに籍を置き、グローバルビジネスの潮流を肌で感じてきたという加藤氏は、今回の買収を実質的に牽引・実行した1人です。
「アシックス製品の海外売上比率は高く、特に欧米で大きな成長を遂げていますが、重衣料やアウトドアカテゴリなどカバーしきれていない領域もあります。そこで事業を包括的に補強するために、アウトドアのグローバルブランドと提携する必要がありました」
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アシックスのスポーツ工学研究所。1985年の11月に、スポーツ用品全般の基礎研究・開発強化のために設立されました
(写真提供 株式会社アシックス)
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気候変動の影響を強く受けるスポーツ事業にとって、安定成長を図る上でプロダクト・ポートフォリオの強化は重要な要素です。アシックスの経営基盤であるランニング事業は春型のビジネスに位置するため、大寒波に襲われて冬が長引いたりすると、その年の業績はおのずと行き詰まってしまいます。特にドイツやスイス、オーストリアなど、ヨーロッパのアルプス山脈周辺地域においてその影響は顕著です。こういった理由から、冬のアクティビティに強いグローバル企業との提携を目指すアシックスにとって、ホグロフス社はまさに最適な存在でした。ただ、ホグロフス社を選んだ理由はそれだけではありません。
「何よりも、経営哲学がアシックスと合致し、互いにシナジー効果を高められる企業であったことが大きな要因でした」と加藤氏。
「ブランドスローガンである“OUTSTANDING OUTDOOR EQUIPMENT”から窺えるように、ホグロフス社の哲学は、テクノロジーを重んじた高付加価値の製品開発にあります。だからこそ、アウトドア人口が大きく、求められる製品レベルが高い北欧で一定の業績を上げてこられたのです。実際私も、ホグロフス社の人たちと触れ合うたびに、製品や商品開発に対する熱い思いを感じます」
ものづくりに経営の立脚点を置く――それは、創業から一貫して変わることのないアシックス自身の企業哲学でもあります。それを共有できることは、買収において欠くべからざる条件でした。さらに、市場におけるポジションが似ていることも2社を近づけた理由でした。
「アシックスのランニングシューズは、ヨーロッパではプレミアム・ブランドに位置し、100ユーロ以上の価格帯ではトップシェアを誇ります。市場のポジションが近いということは、それだけシナジー効果も生まれやすい。今回の統合が『ベスト・マリッジ』と言われるゆえんですね」
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スポーツ工学研究所におけるランニングのデータ測定の様子
(写真提供 株式会社アシックス)
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買収を完了したいま、アシックスが今後の目標として掲げるのは、「HAGLÖFS」が真のインターナショナルブランドとなるためのサポートを行うことです。展開している各国で高い評価を得ているホグロフス社ですが、現在の主な市場は、スカンジナビアおよびフィンランドのノルディック諸国に留まっています。今後、中央・西ヨーロッパをはじめ、アウトドア市場の成長が著しい日本や韓国、さらには北米へと販売網を広げていくことが目下の目標です。
「我々の役割は、あくまでもブランドのオーナーとしてホグロフス社をバックアップすること。しかしその中で、テクノロジーをインプットして製品の質向上を図り、シナジー効果を高めることは可能です。世界全体のエコ志向や健康維持に対するニーズの高まり、またファッションとしてのアウトドア商品の需要拡大など、市場の成長を追い風にビジネスを発展させていきたいですね」と話す加藤氏。最後に、今後の抱負としてこう言葉を結びました。
「我々は投資ファンドではありませんから、買収して企業の資産価値を上げることが目的ではありません。お互いが、真のグローバル企業として成長するために何ができるのか。これからがスタートです」


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