「ダイヤモンドは永遠」とはよく聞く言葉ですが、これはモアッサナイトにもあてはまる言葉かもしれません。モアッサナイトは、化学名をシリコン・カーバイド(SiC)というケイ素と炭素の化合物で、パワーエレクトロニクス技術の未来を担う素材として知られています。ダイヤモンドと同等の硬さを持つこの素材は、高価なダイヤモンドの代用品として宝飾品にも使われています。
スウェーデン大使館投資部(Invest Sweden Japan)のサポートにより、日本の部品メーカーのデンソーとスウェーデンの研究開発(R&D)企業のアクレオは、SiCをベースとした製品およびソリューションの開発に共に取り組み、固い協業関係を築きあげてきました。プロジェクトについて、アクレオ社のSiCエレクトロニクス部門のゼネラルプロジェクトマネージャー、アドルフ・ショナー博士はこう話しています。
「シリコンカーバイドは未来の素材と言えます。私たちはデンソーと共にその可能性を追求できることを嬉しく思っています」
SiCはいろいろな意味でユニークな素材です。通常のシリコン(ケイ素:Si)より優れている点の一つが、耐熱性です。通常のシリコンでは摂氏150℃で負荷がかかりますが、SiCは250℃という高温下でも動作可能です。この特性1つをとっても、SiC半導体はパワーエレクトロニクス技術にとって大きな価値があるといえます。ハイブリッドカーや電気自動車のエンジンなど、非常に高温となりうる場所であっても、SiCを使った電源装置やダイオードなら使用可能だからです。
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アクレオ社 SiCエレクトロニクス部門事業開発マネージャー、クリスチャン・ビエイダー氏(左)とSiCエレクトロニクス部門のゼネラルプロジェクトマネージャー、アドルフ・ショナー博士(右)
(写真提供 Invest Sweden)
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「現代の自動車の内部を見ると、パワーエレクトロニクス技術がいたるところに使われているのがわかります。たとえば、バッテリーや発電機から供給される電力は、使用される場所に応じて低周波や高周波に変換されています。このため、重量やボリュームを小さくした電力変換装置が必要となるのです」(アドルフ・ショナー博士)
デンソーは、自動車産業に特化した部品メーカーです。本社を置くのは、愛知県刈谷市。同社の主要顧客である世界最大の自動車メーカー、トヨタの本拠地のほど近くです。一方、アクレオ社が本社を置くのは、スウェーデンのシスタ。言うまでもなく、刈谷市から遠く離れています。では、両社はどのようにお互いを知ったのでしょうか。
きっかけとなったのはおそらく、2002年に、ショナー博士が京都大学の海外研究者招聘プログラムで日本に招かれたことでしょう。京都大学はさまざまな分野で成果を上げており、SiCの研究でも有名です。同大学は、SiC素材の開発に関するプロジェクトをデンソーと共同で進めており、アクレオ社をデンソーに紹介しました。それが契機となって、同じ素材の研究を進めていた両社の間に協業というアイデアが生まれたのです。
デンソーはアクレオ社に投資を行なってはいませんが、Invest Swedenは両社の取り組みに関わり、コミュニケーションやR&Dコラボの実現をサポートしてきました。この役割は、今でも変わりません。
「プロジェクトは5、6年前から継続して進められており、Invest Swedenの支援にはとても感謝しています」とショナー博士は言います。「プロジェクトの進行状況を全員が把握できるよう、私たちは1年に1度か2度のペースでInvest Swedenと会合の場を持つようにしています」
SiCという素材には、一種のロマンがあります。研究者のなかには、星屑がSiCでできていると主張する人もいます。突飛な理論に聞こえるかもしれませんが、ありえないことではありません。この希少鉱物が発見される可能性があるのは、地球上で、隕石の衝突があった場所だけに限られているからです。SiCの生成には3000℃以上の高温が必要なのです。
この鉱物が最初に発見されたのは、1893年、米国アリゾナ州の名高いディアブロ渓谷。発見者は、後にノーベル賞を受賞したヘンリ・モアッサンです。
しかしそれより何年も前に、スウェーデンの化学者イェンス・ヤコブ・ベルセリウスが、世界で初めてSiCの合成に成功しています。これは偉大な功績です。希少で需要の高いこの鉱物が大量生産可能であり、ゆえに多くの用途に利用できることが、これによって示されたのです。
高温強度、耐食性、硬度に優れ、さまざまな特性を持つSiC。尽きない可能性を追求し、アクレオ社とデンソーは協業に取り組んでいます。


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