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もうひとつのワールドカップ
−スウェーデンと日本をつなぐスウェーデン人 尺八奏者 |
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2002.06.15 |
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近頃、人々の話題の中心になっているワールドカップ。ピッチでは連日、熱戦が続いていますが、そのピッチの外でも、12番目の選手達が、それぞれのワールドカップを戦っています。その中のひとり、スウェーデンチームの広報担当であるグンナル・リンデル(Gunnar
Linder)さんは、彼の持つスウェーデンと日本の文化をいかした仕事で、ワールドカップを支えています。 |
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アイスホッケーやスキーなど、冬のスポーツで知られるスウェーデンですが、実はサッカーも国民の絶大な人気を集めるスポーツのひとつです。今大会でも、炎天下にも負けず、その金髪を青と黄に染めたスウェーデン人達が、スウェーデンの国旗をその長身にまとい、声をからして応援しています。
スウェーデンチームの熱狂的なファンの中には、もしや見覚えのある方もいるかもしれませんが、長身のポニーテールの男性、それがリンデルさんです。「ほぼ24時間勤務体制です。この仕事に求められることは、物事に柔軟に取り組む姿勢、そして忍耐です」とリンデルさん。「チームのスケジュールが予告なしに変更されることは日常茶飯事。バスの移動だって、渋滞がつきものです」。インタビューを求めるマスコミ、選手を一目見ようと押し掛けるファンの群れに囲まれて、リンデルさんは携帯電話を駆使し、仕事に奮闘しています。リンデルさんの仕事は遅い時間までおよび、数時間の睡眠しかとれないこともしばしばだとか。

リンデルさんは、常に落ち着いて、仕事をひとつひとつ片付けていくことが、大切だと言います。そうでないと、矢継早に押し寄せる仕事を処理ことは出来ないと言います。このように大変な任務を確実にこなしていけるのも、雑念を取り除き集中力を高める禅の修行を、リンデルさんが日頃から実践しているからかもしれません。外国人が禅の修行?と思われる方は多いでしょうが、リンデルさんの日本文化への傾倒は、それだけではありません。
それが、尺八。このワールドカップが終わったら、リンデルさんは、本来の仕事である尺八奏者の顔に戻ります。リンデルさんは、東京芸術大学で尺八を学び、修士号を取得した二人目の外国人奏者なのです。現在、日本人女性と結婚し、3人のお子さんと東京に暮しているリンデルさんは、1985年に初来日。当時学生だったリンデルさんの日本への道は、なんとシベリア鉄道。ナホトカでフェリーに乗り換え、横浜に入港。その時彼が手にしていたのは、片道チケット。学生の懐具合では往復チケットを買う余裕は無かったと言います。
「日本について好きな点がたくさんあります。例えば、人々が集う時、そこで一番大切とされるのは、『和』ですよね」、とリンデルさんは日本に魅了された理由を話してくれました。「理論を好み、全てのことに理由が必要な西洋文化から見ると、この『みんなが楽しければ』という概念は、うわべの付き合いと取られるかもしれませんが、私は、この人の和を大切にする心は、とても素晴らしい事だと思います」。
現在43歳のリンデルさんは、生計のため、尺八奏者としての活動以外に、いろいろな仕事をしています。今回のワールドカップの仕事もそのひとつ。しかし、この仕事は、異なった言語を通訳するだけにとどまらず、スウェーデンに生まれ、日本の文化に魅せられたリンデルさんによる、両国の文化交流の掛け橋となっています。
リンデルさんの夢は、尺八などの日本の伝統音楽を、ヨーロッパを始めたくさんの国々へ伝えること。リンデルさんは既にヨーロッパやアメリカで演奏会を開いており、夢の実現に向けて着実に進んでいます。今年の8月には、リンデルさんの3枚目となるCDアルバムを製作する予定です。小学校の時に短調と長調も分からず、音楽の教師に叱られていた少年が、遠い異国の地で26歳から始めた尺八が、ここまで来ました。ぜひ、スウェーデン人の奏でる日本の伝統音楽を聴いてみてください。これがかつて音楽が苦手だった少年の音楽かと思って聴くと、また一味変わって聴こえるかもしれません。

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