―BTとの関係強化に至った経緯を教えてください。
トヨタの産業車両のビジネスは、2000年までは開発と製造を豊田自動織機が手がけ、トヨタ自動車で販売していました。しかし、豊田自動織機の扱っている製品だけでは世界市場を押さえるのは難しかったため、不足している製品をOEM供給できるメーカーを探しました。そして1997年ごろ、私がトヨタ自動車の部長をしている時に、BTとの交渉を開始しました。1999年にはBTとのOEM交渉が妥結。BTとの相互信頼関係が高まるに連れ、トヨタグループとの関係をいっそう強化したいという意向がBTより提示されました。
―最初から買収を計画されていたのですか?
いいえ。トヨタグループは、基本的に買収は行いません。海外に進出する際は、ゼロから立ち上げてトヨタのやり方を完全に移入する「グリーンフィールド」が大原則です。このため、BTとの件についても、トヨタ自動車と豊田自動織機の間で十分な話し合いと検討を重ねた末、産業車両分野の強化には買収がベストという結論に至ったのです。その際に、製造と販売が2社に分かれているのはよくないとの判断から、豊田自動織機がトヨタ自動車から販売権の譲渡を受け、産業車両事業の一本化も併せて進めました。
―BTが他社と比べて優れていた点は何でしょうか?
第一に、当然ながら製品が優れていました。また、97年から交流を続ける中で、経営陣が非常に優秀であり、また、私たちにとって大変興味深い経営システムを展開しているということが分かりました。
―興味深い経営システムとは?
BTではITをフルに使い、月ごとの売り上げなどの営業指標が、すべてデータとして加工されて幹部に届くようになっています。この間に人の手を必要としません。非常に合理的なシステムです。日本では、ここに人を多く配置し、間接費用がかさんでいます。このような無駄を排除して、利益を上げる仕組みを作っているんですね。また、今でこそ日本企業でも当たり前となりましたが、彼らは市場シェアや営業利益などという単純な指標だけではなく、キャッシュフローで経営状況を見ていました。これは、私たちにとって非常に新しい概念の経営管理システムでした。
―逆に、BT側も豊田自動織機から多くを学んだことでしょう。
BTでは、彼らなりに優れた生産システムを持っていたのですが、トヨタの生産方式から見ると無駄が多い。そこで、在庫をできるだけ少なくするなど、トヨタの生産方式の考え方をBTに取り入れていこうとしました。ただ、トヨタとは商品の特性も違いますので、本格的な導入にはもう少し時間がかかるでしょう。
―豊田自動織機からBTに派遣されたのは余語さんおひとりのみでした。
今回の買収では、BTにはそれまでの経営を変えないことを約束しました。経営者も、システムも、当初は決算月さえ変更しませんでした。このような方針の中で、日本人が大勢押し寄せれば純粋性が損なわれてしまいます。ただ、豊田自動織機としても非常に大きな金額を投資しましたので、間違いがあっては困ります。常に現場でコミュニケーションを取り合う人間が必要でした。そこで、BTをよく知っている私に白羽の矢が立ったのです。BT側としても、買収されたという感覚が少なく、気持ちよく仕事ができたと思います。
―現在、豊田自動織機の産業車両部門はいかがですか?
BTが傘下に入ったおかげで、非常に強くなりました。現在、世界シェア25%で第一位です。協業体制もさらに強化され、生産指導担当も含め3名ほど豊田自動織機からBTに派遣されています。
―最後に、スウェーデンに進出する際に注意するべきことを教えてください。
スウェーデン人は、自らのやり方に自信とプライドを持っており、それがベストだという考え方が強いようです。これを変えさせるのは、簡単なことではありません。ただ、頭がよく、国際性にも富んだ人たちですので、一度優れていると認めたものに関しては素直に受入れます。また、国民のほとんどが非常にきれいな英語を話しますので、対話に困ることはありません。忍耐強くコミュニケーションを取り、彼らの意思やスタイルを尊重しつつ、私たちとの融合を図っていくという努力が大切ですね。
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