80年代の始め、初期のPC「Commandore 64」がその年のクリスマスプレゼントとして一番の人気商品となりました。それが後に、10億クローナ規模に成長する、スウェーデンにおける新興産業のきっかけとなったのです。Commandore 64を構成するプログラム言語は、独創的なソフトウェアの開発を目的として生み出されたもので、まずゲームの開発に利用されました。荒削りながら、独自のプログラムを作り上げるのに最適だったその言語を基に、スウェーデンのゲーム産業は数々の製品を市場に送り出し、やがて世界を席巻したのです。
スウェーデン・ゲーム開発事業協会スペルプランASGD会長のペール・ストロームベック氏は、次のように語っています。
「今日ゲーム開発者として成功している人のほとんどが、まずは単純なピンボールゲームのプログラムを理解し、そこで得た知識を応用してさまざまなタイプのゲーム開発に取り組んでいったのです」
スウェーデンでは、ゲームソフトメーカーがゲームを開発することはなく、独自のゲームタイトルを有する約20の開発会社の周辺で、小規模な会社が80社ほど、ある種の機能もしくはプログラミングに特化し、大きな開発会社の下請けとして機能しています。グラフィックやアニメのほとんどは、アジアのサプライヤーから購入しています。
急成長する国内ゲーム産業を支援
2006年現在、就業者約1000人、年間売り上げ10億クローナというゲーム産業をこのまま維持していくには、スウェーデン国内のゲーム産業はあまりも脆弱です。業界は逞しく成長を続け、コンサルタント会社プライス・ウォーターハウス・クーパースの試算によると、来年度も50パーセントを超える成長が見込まれ、10年後には就業者が2万5000人に達すると予測されています。
スペルプランASGDは2005年春、スウェーデンの対外競争力強化を目的とする知識・能力向上のための学会「Spelplan SE」と、ゲーム・メーカーで構成する協会「Association of Swedish Developers」とが合併して誕生しました。
今日、スペルプランASGD の会員となっているのは、800名以上の従業員を抱える19の企業です。「スペルプランンASGDの使命は、学術界と産業界の架け橋となり、高水準の教育レベルを維持しながら研究を促進していくことにあります」と、ストロームベック氏は合併の意義を強調します。このようなスペルプランASGDの努力は功を奏しました。学術界は今日、輸出産業としてゲーム産業が大きな成長を遂げる可能性があることを認識し、国内の大学や技術専門大学を通して、ゲーム開発・デザイン分野における広範な教育の機会を提供しています。
英米系のソフトメーカーによる相次ぐ買収
毎年約50のタイトルがスウェーデンで生まれ、そのうちの5つ前後がその年の世界市場でベストテン入りを果たしています。「ここ数年、業界が成熟してきたこともあり、勝ち組と負け組みがはっきり分かれてきました。そこに追い討ちをかけるように、英米系の大手ソフトメーカーによる、開発会社の買収が活発化しています。ほとんどの場合、自ら開発を手がけるよりも安上がりですから」と、ストロームベック氏は言います。
マッシブ・エンターテイメントの
「Ground Control」 |
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1997年創業のマッシブ・エンターテイメント(Massive Entertainment)は、その典型的な例と言えます。マッシブ・エンターテイメントは、新しいジャンルとして話題となったストラテジー・ゲーム「Ground Control」が記録的な売れ行きを見せ、ブランド化に成功して市場に定着しました。しかし2002年、当時の競合ゲームソフトメーカーのVivendi Universal Games(VUG)に買収され、今では北米以外の地域に2つある「VUG開発スタジオ」のうちのひとつとして細々と事業を営んでいます。しかし、開発力はまったく衰えておらず、次にリリースされる予定の大作、リアルタイム・ストラテジーゲーム「World in conflict」は2007年度のゲーム市場を大きく揺るがすことになると業界の注目を浴びています。
ゲーム開発会社として成功していたスウェーデンのDigital Illusions CE(DICE)も、ゲームソフトメーカーであるエレクトロニック・アーツ(Electronic Arts)に買収された際、同じ道をたどりました。2004年当時のDICEはスタッフ250人を擁し、カナダとスウェーデンに開発スタジオを持つ、株価6億クローナ(約94億円)の企業でした。DICEの大ヒット作品「Battlefield」は親会社となったエレクトロニック・アーツによってPC用ゲームとして拡販され、ソニーやマイクロソフトのゲーム機にも採用されました。
業界最高の技術を生み出した秘訣

アヴァランチ・スタジオの「Just Cause」 |
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業界内で技術的に最も優れていると見なされているスウェーデンのゲーム開発会社、アヴァランチ・スタジオ(Avalanche Studios)が、3年がかりで開発した「Just Cause」というゲームが2006年秋に発売される見通しです。「Just Cause」はキャラクターの視覚に動画を加えるという、まったく新しい発想のゲームであり、ソフトメーカーをはじめとする業界関係企業はもちろん、コンソールメーカーなど、他業種の企業も注目しています。そんな前評判もあってか、アヴァランチ・スタジオは「Just Cause」の 目標販売数を200万個と強気に設定しています。
「ゲーム開発におけるスウェーデンの成功には、2つの要因が考えられる」と、ストロームベック氏。まず、80年代初頭に「Commandore 64」、次いで「Amiga」が市場投入されたとき、かなり早い段階でコンピューターを入手できた若者が大勢いたこと。もうひとつは、アイスランド神話に始まりアストリッド・リンドグレーン著「はるかな国の兄弟」にいたるまで、何世紀にもわたって受け継がれてきた「語りの伝統とファンタジー嗜好」と言います。
「神話を語り続ける一方で、スウェーデンには大学レベルの優れた技術教育があります。技術力に優れ、なおかつデザインが得意、それが私たちスウェーデン人の強みなのです。これに加え、スウェーデン人の一般的な長所である誠実さ。自らの発言に責任を持ち、グループ作業においても協調性を重んじる一方で、各自の役割をしっかりこなすように、義務教育の時代から身を以て教え込まれています。そのうえ、テレビドラマやアニメ、映画といった大衆文化において駆使される語りの技術も、私たちは生まれながらに持ち合わせているのです」と、ストロームベック氏は誇らしげに語ります。
パートナーとして望まれる日本
スウェーデンをはじめとする北欧のゲーム開発会社は、主にアメリカのメーカーと良い協力関係を築いています。次の目標は強力な経済力を持ち、分野によっては技術的にもリードしていると見なされる日本企業との協力関係を築くことと、ストロームベック氏は言います。 「日本はゲーム市場の先駆者。トレンドを生み出し、技術を向上させ、ゲーム業界を発展させてきました。もし、日本の開発スタジオとの協業が実現すれば、スウェーデンのゲームソフト開発者はより良い刺激を受けるに違いありません」。反面、日本市場に根を下ろそうと試みて、失敗に終わったスウェーデン企業がすでに複数あることも教えてくれました。
「日本の企業から私たちに要請があり、共同作業を開始する方がうまく行くかもしれませんね」と、日本企業へのラブコールでインタビューを締めくくりました。 
スペルプランASGDの5つの主要業務:
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業界内企業にとっての議論の場、かつ代弁者となること。会員へのサービスや情報公開。国際的な活動にも責任を持ち、海外進出の際の仲介・補助・仲裁
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海外からの資本の導入と製造を誘致するための支援。競合の多い地域には強力なサポートシステムを構築。競争に勝つために障害となる弱点を取り除く。
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研究の促進と良質な教育を実現させるために、学術界と産業界の架け橋として機能すること。
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数年後に予想される業界の躍進に備え、優秀な人材を必要とするゲーム開発のために労働力の強化・増大を指導する。
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製品の輸出を最大限にサポート。また、新興企業に情報を提供し、業界における地位の向上を支援する。 |

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