スウェーデンモデルの礎にあるもの ITバブルと呼ばれた現象を覚えていらっしゃいますでしょうか。つい昨日のことのように思えるこの出来事から、すでに10年以上が経過しました。ストックホルムが『ニューズウィーク』の表紙を飾り、「新しい世界」の支配者として称えられたのは2000年初めのことです。
予想されていた大規模な革命は実現しませんでしたが、当時のスウェーデンのWebエージェンシーの実績は、成功と持続可能性を両立する今日の「スウェーデンモデル」の礎となりました。スウェーデンコミュニケーションエージェンシー協会のCEO、ジェシカ・ビューストレムさんは、スウェーデンモデルについてこう語っています。
「スウェーデンのエージェンシーが優れた実績を出せた背景には、いくつかの理由があります。第一に、何よりも創造性を重視したこと。そしてオープンマインドで、お互いから学ぶことを恐れない姿勢もとても重要なものです」
これまでに、スウェーデンのWebエージェンシー団体は46以上の国際的な賞を受賞しています。この受賞数は、アメリカ、ブラジル、ドイツに次いで4番目となりますが、人口比率で見ると、スウェーデンのWebエージェンシーの数は上位3国に比べて圧倒的に少ないことが分かります。
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IKEAの新店舗オープンで実施された、Facebookを活用したプロモーション。内容は、店長が掲載した商品写真に対し、消費者が自分の名前をタグ付けするというもの。一番最初にタグ付けした商品を手にできるとあり、低予算ながらかなりの効果をあげました。
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「数字を厳密に分析すれば、スウェーデン人はアメリカ人より100倍以上創造的であると推定できますよ」と、ビューストレム氏は茶目っ気たっぷりに言います。
特に国際的評価が高いスウェーデンのエージェンシーには、イケアの仕事で数多くの実績を持つフォースマン&ボーデンフォースや、フォルクスワーゲンなどの仕事で数々の賞を受けているDDBストックホルム、そしてノキアの仕事で知られるファーファーなどが挙げられます。フォースマン&ボーデンフォースとDDBストックホルムは、ガン・レポート(The Gunn Reports)が行った世界のインタラクティブ広告代理店の調査において世界一のインタラクティブ広告の代理店に選ばれた上、Top Honours for Digital Agencyを受賞。またファーファーは同調査のデジタルキャンペーン分野において、ノキアの「World's Biggest Signpost」で2位に輝いています。
比較的小さな規模のエージェンシーが、グローバルに事業を展開する多国籍企業と契約を交わしていることは、一見すると奇異に映るかもしれません。しかしビューストレム氏や他の人たちによれば、決して珍しいことではないと言います。
「鍵になるのは創造性。スウェーデン人の創造力は有名です。ニューヨークにある世界的によく知られたエージェンシーでスウェーデン人が2人雇用されていることは、そのクオリティを示していると言えるでしょう」
ローカルを重視する姿勢
海外の多くの企業に認められているスウェーデンのWebクリエイターですが、彼らの現在のトレンドは、世界中を飛び回り、大きなエージェンシーに籍を置くことではありません。逆に、地元やローカルコミュニティのつながりを重要視する人が増えているのです。
「ITと航空ネットワークの発展のおかげで、今や、仕事のために他国に移住する理由はほとんどありません。協会のメンバーはしばしば国外出張に出かけますが、暮らしの拠点としては、賢い生き方が選択できるスウェーデンを好みます」とビューストレム氏は言います。
グローバルの前にローカルであることを重視するこういった姿勢は、スウェーデンエージェンシーの成功を支える要因の1つとみなされています。人と人とのコミュニケーションにおいて大切なのは、自ら相手に手を差し出すことです。それは、地に足をつけて暮らしを営み、土台がしっかりしている人にこそ備わっているスキルと言えるでしょう。元米国大統領の言葉を借りて表現するならば、「歩くのは穏やかに、持ち運ぶのはあまり大きくない棍棒を」とでもいうような人でしょうか。
「スウェーデンは、ヨーロッパの北辺に位置する小さな国。自分たちの限界はきちんと認識しています」とビューストレム氏。
こういった控えめな姿勢は、多くの優秀なエージェンシーが、必ずしも首都ストックホルムに拠点を置かないことからも分かります。ノースキングダム社は、8カ国と数多い国籍の従業員を擁する企業ですが、その拠点はシェレフテオにあります。
「ネットや交通手段の発展により、世界はどんどん小さくなっています。こういった世界の在り方は、私たち協会の人間にとても合っています」 (ジェシカ・ビューストレム氏)

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